ひと昔前なら、大企業と中小企業のどちらに転職したいかを尋ねれば、ほぼ全員が大企業を選んだはずです。ところが、人生100年時代が提唱されている現在の日本では、「働きやすさ」「可能性」という面から、中小企業を第2の職場に選択する人が増えつつあります。
とはいえ、大企業の感覚を中小企業へそのまま持ち込み、せっかくの能力を発揮できていない人が多いのもまた現実です。
そこで今回は、大企業から中小企業へ、上手にキャリアチェンジするためのポイントを紹介していきます。最後まで読めば、中小企業へのキャリアチェンジが失敗する確率を、大幅に減少できるでしょう。
=目次=
中小企業に転職するメリット
中小企業への転職では、家族の反対が起こる可能性も高いです。そういった状況を乗り越えるためにも、まずは自分自身が「中小企業にキャリアチェンジするメリット・デメリット」をきちんと理解しておかなくてはなりません。最初に、とくに重要な4つのメリットを紹介します。
経営者のそばで、経営ノウハウが学べる
大企業で働いていると、扱う仕事の規模は大きいですが、あくまでもプロジェクトごとの分業が基本です。当然、会社の経営そのものについて、まったく関わるチャンスはありません。
その点中小企業なら、経営者のそばで、経営全体のノウハウを学べる可能性が高いです。こういった能力が身につくと、将来独立する際にも、非常に役立ちます。独立したら、仕事や組織づくりなど、最初はすべてひとりで業務を回していく必要がありますので。
独立はしないとしても、そのくらいまでレベルアップしておけば、いずれは経営者の右腕として働く日がくるかもしれません。お給料をもらいながら経営の勉強をさせてもらっていると考えると、中小企業で働くモチベーションがググッとアップしますね。
関与できる業務範囲が広く、自由に仕事をさせてもらえる
中小企業では関与できる業務範囲が広く、自由に仕事をさせてもらえる可能性が高いのも嬉しいところです。
大企業の場合、「営業なら営業だけ、経理なら経理だけ」というように、業務範囲は非常に限定されます。一方、中小企業では、そもそも人員が不足しているので、さまざまな分野の仕事をひとりでこなさなければなりません。
これを負担と考えるか、自分が成長するチャンスと捉えるかで、中小企業での働き心地は大きく変わってくるでしょう。
結果を出せば、昇給や昇進が期待できる
企業規模別の平均賃金※を比較すると、「大企業348,300円」「中小企業303,000円」と、その差は45,000円にも上ります。中小企業で働くと、10年の間に5,400,000円も賃金が低くなるわけですから、この差に愕然とする人もいらっしゃるでしょう。
しかし、中小企業は経営者の意向が非常に強く働く組織形態です。基本的に年功序列よりも結果が重視されますので、結果さえ出せば大幅な昇給や昇進が期待できます。
対して大企業では、従業員に対して十分な役職を用意できなくなりつつあります。そのため役職定年で、50代にして早々と第一線からふるい落とされるのが現実です。そういう現状を考えると、目先の収入差を気にしすぎるのはまったく意味がないと思いませんか。
異動や転勤が少ないため、落ち着いて働ける
異動や転勤の少なさも、中小企業で働く大きなメリットのひとつです。日本中(世界も含む)に支店のある大企業では、「定期的な人員配置の補正」や「さまざまな経験を積ませる」といった理由から、頻繁に転勤を命じられるケースが少なくありません。
正直従業員からすれば、できれば転勤したくないというのが、多くの人の本音でしょう。年齢にもよりますが、転勤になれば、住宅問題や親の介護問題が重くのしかかってきます。
当然、これまでのコミュニティを手放して、ゼロからまた人間関係をつくっていかなければなりません。子どもの受験などが重なれば、単身赴任を選択するしかないケースも多いはずです。
その点、中小企業なら、こういった非人間的な扱い(あえて厳しい表現をしました)を回避できる可能性が高くなります。
中小企業に転職するデメリット
なにごともメリットがあれば、デメリットもあります。今度は、中小企業に転職するデメリットを、4つほどみていきましょう。
社内制度が整備されていないので、雑務が多い
メリットであげた「関与できる業務範囲が広く、自由に仕事をさせてもらえる」というのは、逆からみれば大きなデメリットともいえます。
中小企業では慢性的な人員不足のため、さまざまな業務をほかの従業員と協力して、こなしていくのが普通です。
こういう状況は、たしかに自分のスキルをアップさせるチャンスといえます。しかしその一方で、雑務が多くメインの業務に集中できない不満を、感じる人もいるかもしれません。とくに、これまで専門的なスキルを武器に働いてきた人は、余計そう感じるでしょう。
ネームバリューが弱く、社会的信用が下がる場合も
大企業に比べて、中小企業のネームバリューが弱いのは、残念ながら事実です。そのため、働くあなたの社会的信用も、中小企業に転職すれば下がってしまう可能性があります。
社会的信用というのは、大きく2つの面が考えられます。
ひとつは、会社の信用度に関するものです。これまで大企業の看板で受けていた恩恵は、中小企業ではほぼ受けられないと思ってください。
また、あなた個人の社会的地位も、少々ダウンするのは避けられません。とくに関係するのは、住宅ローンや自動車ローンなどでしょうか。
もしこういった大きな買い物を予定しているなら、できるだけ大企業在籍中に購入しましょう。そうすれば、借入限度額や返済条件に関して、よりよい条件を引き出せるはずです。
よくも悪くも、経営者次第で働きやすさが変わってしまう
さきほど紹介したメリットは、もし経営者と合わなかった場合、すべて大きなデメリットになり得ます。
企業規模が小さい分、経営者との距離が近く、さまざまなノウハウが学びやすいのは事実です。うまく結果を出せれば、気持ちよく仕事もできるでしょう。
しかしもしも経営者と合わなければ、前述のメリットはすべてデメリットに変わります。なぜなら、中小企業は経営者の意向が大きなウェイトを占めるからです。
とはいえ、あまり深刻になる必要はありません。もしどうしても、その企業では力を発揮できないと判断したら、また転職すればいいのです。最初からあまり深く考えても、こればかりは実際に働いてみないとわかりませんからね。
大手に比べて、報酬・福利厚生が不十分
報酬や福利厚生という面をみると、中小企業が大手企業に勝てるケースはまずないでしょう。つまり、中小企業に転職するなら、必ず待遇が悪くなると納得しておく必要があるわけです。
とくに報酬の低下は、家族の生活にも大きく関係してきます。後述する嫁ブロックを回避するためにも、ぜひきちんと家族間で話し合ってください。
とはいえ中小企業の場合、きちんと結果を出せば、報酬は一気にアップする可能性があります。企業としても、まだどのくらい働いてくれるかわからない人に、いきなり高い報酬を払うのは大きなリスクです。だから多くの企業では、入社時の報酬を低めに設定しています。
あとは、あなたの努力次第です。ぜひこのデメリットを、あなたの実力でメリットに変えていきましょう。
中小企業へのキャリアチェンジ8つのポイント
冒頭でもお話ししたように、大企業の意識をそのまま持ち込めば、中小企業への転職はまずうまくいきません。そういった失敗を回避するためにも、最後に中小企業へキャリアチェンジする際のポイントを8つ紹介していきます。
1.中小企業の採用事情を知っておく
※参考:中小企業・小規模事業者 人手不足対応ガイドライン (改訂版)
中小企業への転職を考える際、まず理解すべきは中小企業の採用事情です。中小企業庁の「中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン」をみると、企業規模を問わず、人手不足感は過去最高レベル(令和2年度時点)であるとわかります。(上図参照)
それなのに、年齢階級別転職入職率※1を確認すると、年齢を重ねるごとに転職の入職率は下がっていく一方です。25〜29歳層と比べて、もっとも低い45〜49歳層では、半分以下の入職率となっています。
このデータをみる限りでは、やはりミドルシニア層の転職は厳しそうです。とはいえ、このデータは、企業規模を反映したものではありません。
ミドルシニア層に特化した転職エージェントの立場からみると、中小企業にターゲットを絞れば、それなりに門戸は開かれているように感じます。
一般的に中小企業は、採用にかけられる労力が限られています。そのため、事業内容や採用情報を、大々的に発信できずにいるケースが非常に多いのです。
となれば、転職を希望する側が積極的に中小企業の情報を探さないと、転職はなかなかうまくいきません。もし中小企業への転職を希望しているならば、弊社がおこなっている中小企業との人材マッチングイベントなどを、まずはフル活用してみてください。
※参考1:-令和3年雇用動向調査結果の概況-
2.中小企業こそ、40代・50代が求められている
結論からいうと、中小企業には、40代・50代の活躍できる場がたくさんあります。だから、まずは自信をもって、採用案件に応募してもらいたいのです。
前述のとおり、40代・50代より若い人材を欲しがる傾向が強いのは、紛れもない事実です。しかし弊社が、職業紹介を依頼された中小企業から詳しく話を聞くと、その会社の成長には、経験豊富な40代・50代の「中核人材※」のほうがふさわしいケースも少なくありませんでした。
※中核人材:高度な業務を担う人材、管理運営の責任者など
実際中小企業庁のレポート※1をみると、48.2%もの中小企業で、中核人材が不足している状況がわかります。
当たり前の話ですが、経験もスキルも不足している20代では、基本的に中核人材にはなれないと考えるべきでしょう。つまり中小企業なら、経験豊富な40代・50代の中核人材が活躍できる可能性も高いわけです。
ぜひ、自分の経験とスキルを前面に打ち出し、積極的にアピールをしていきましょう。
※参考1:人材不足の克服 第4章 | 中小企業庁
3.企業風土が自分に合うかどうかをしっかりと確かめる
大企業から中小企業への転職では、転職先の企業風土と自分の相性を、しっかりと見極める必要があります。
なぜなら中小企業では、よくも悪くも経営者の考えが大きく反映されてしまうからです。この経営者となら一緒に働きたいと思えるかどうか、慎重に見極めてください。
とはいえ、社長と直接やり取りする機会は、現実的に面接時くらいだと思います。であれば、面接などで会社を訪問した際に、実際に働いている人の雰囲気を確認しましょう。
自分は雇ってもらう側だからなどと、遠慮はいりません。合わない企業で働いても、お互い不幸になるだけです。
抽象的ですが、経営者の考えは会社の風土として、従業員の働く雰囲気に表れるもの。「活気があるか」「笑顔があるか」「挨拶はしっかりしているか」など、自分が楽しく働ける環境かどうかを、ぜひチェックしてください。
4.企業で培ったスキルを中小企業にどう活かすかを考える
大企業で培ったスキルや経験は、中小企業にとって貴重な資源となり得ます。会社の組織やシステムが成熟していない中小企業では、大企業で普通におこなわれていることが、放置されているケースも非常に多いからです。
たとえば、あなたに新規事業の責任者という経験があったとしましょう。事業計画の立案・資金計画・リスク対策・競合対策を完璧にオーガナイズできる人は、中小企業で間違いなく重宝されます。
さらに、大企業で培った組織運営やマネジメントスキルも、中小企業で渇望されている能力のひとつです。とくに起業して間もないベンチャー企業では、会社をスムーズに運営するための基盤づくりを早急に求められています。
このように、自分のスキルや経験と会社のニーズが一致すれば、あなたはその会社にとって「なくてはならない存在」であると、すぐに認められていくでしょう。
楽しくやりがいをもって働くためにも、「大企業で培ったスキルを中小企業にどう活かすか」を、真剣に考えておきたいですね。
5.報酬や待遇にこだわらないのがポイント
中小企業へのキャリアチェンジを成功させるには、報酬や待遇にこだわりすぎないのがポイントになります。
なぜなら、中小企業の報酬の低さを敬遠する転職希望者が多いため、報酬よりもやりがいや働きやすさを選ぶ人は、企業側でも採用しやすいのです。
ちなみに企業規模別の月給額を調べてみると、たしかに企業規模によって、給与額に格差が見受けられました。
【企業規模別の平均支給額(令和2年4月分)技術課長クラスの場合】
- 企業規模50人以上100人未満:450,369円
- 企業規模100人以上500人未満:513,067円
- 企業規模500人以上:602,451円
500人以上の規模と100人未満の企業では、月額で15万円以上も差があるわけです。個別の企業ごとに状況は変わってくるとはいえ、こういった数字を実際にみると、中小企業への転職をためらう理由も十分理解できます。
しかしだからこそ、中小企業で働くメリットをきちんと理解して真剣に行動すれば、転職の確率が大幅にアップするのは間違いありません。報酬はあとからアップさせることも可能ですので、まずは入社することに集中してみてください。
6.家族としっかり話し合い、「嫁ブロック」を回避
中小企業への転職を阻む理由として、家族からの反対も見逃せない要素です。なかでも奥さんからの反対、いわゆる「嫁ブロック」が原因で転職を取りやめた人は、じつは相当数いるのではないかと思います。
したがって、転職前に家族としっかり話し合い、なんとかして「嫁ブロック」を回避しなければなりません。
家族が反対する理由はシンプルです。あなたの転職に家族が反対するのは、「これまでよりも収入が下がるのではないか」という不安感しかありません。
前述のとおり、大企業と中小企業の報酬は大きく異なります。しかも、一般的に大企業勤務のほうが社会的ステータスも高いと考えられていますから、「転職するならせめて大企業にして欲しい」というのが家族の本音でしょう。
反対する家族に転職を納得してもらうには、最低限以下のようなポイントを実践する必要があります。
- 家族の生活に大きな支障のないよう、転職後のマネープランをきちんと計画する
- 転職後にどういう変化が起きるのかをしっかりと説明する
- どうして転職をしたいのか、自分の気持と現状をきちんと知ってもらう
最終的には、「家族のこともしっかりと考えたうえで、それでも転職がしたい」というあなたの想いを、じっくりと理解してもらうしかありません。決して焦らずに、しっかりと家族のコミュニケーションを図ってください。
7.中小企業への転職前に必要なリサーチと情報収集のやりかた
転職先とのマッチングは、今後の社会人人生を決める重要な要素です。中小企業への転職を考えているなら、十分なリサーチと情報収集を心がけてください。具体的なリサーチの方法としては、以下の3点が考えられます。
- 公式サイト
- SNSや口コミサイト
- 転職サイト
まずは、なんといっても公式サイトの読み込みです。採用ページだけでなく、企業理念・業務内容・取り組みなど、とにかくすべてのページに目を通します。
公式情報なので、差し当たりのない内容が多いし、企業の実態を探るのはむずかしいかもしれません。しかし、企業の概要はあらかた把握できるし、公式サイトにはその企業独自の文化がなんとなくにじみ出ているものです。
公式サイトの次は、SNSや口コミサイトのチェックをしておきましょう。こういった媒体では、企業の最新動向や社会的評価を確認できます。
もちろん、匿名での媒体なので、100%信じるのは危険です。気になる情報があれば、よいことも悪いことも、とにかく裏を取る必要があります。
また、転職サイトでの情報収集も忘れてはいけません。ミドルシニアの転職に特化した転職エージェントへサポートを依頼すると、エージェント側からあなたに合う求人案件を提示してくれます。
ミドルシニアに特化した転職エージェントについては、このあと詳しく解説します。
8.40代・50代に強い転職エージェントを活用する
専門的な知識と経験を持つ転職エージェントの助けを借りられれば、より効率的で成功確率の高い転職活動が可能です。とくに40代・50代の転職に強いエージェントは、ミドルシニアの転職で発生しやすいさまざまな問題に対しても、的確にサポートしてくれます。
また、こういった転職エージェントは、多くの企業と深い関係を築いているものです。一般には公開されていない非公開求人を取り扱っていることも多いので、ここだけをみても、エージェントのサポートを受ける価値は十分にあるといえるでしょう。
さらに、転職エージェントでは、キャリアの棚卸し・応募書類作成や面接対策などもサポートしてくれます。
中高年の転職では、自分を採用するメリットについて、いかに採用企業に伝えられるかが勝負です。そのために、キャリアの棚卸しをして、自分の強みやスキルを明確にしておく必要があります。もちろん、その強みを書類や面接でしっかりと伝える準備も欠かせません。
そういった準備を独力でおこなうのは、正直かなり大変です。無理をせず、知識もノウハウもある転職エージェントの力を借りましょう。
◯転職エージェントの活用については、こちらの記事でも確認できます
まとめ
今回は、大企業から中小企業へ、上手にキャリアチェンジするためのポイントを紹介してきました。中小企業へのキャリアチェンジは、「入社時の報酬が低い」など、デメリットがたしかに少なくありません。
しかし、あなたの努力次第では、すべてを好転させることも十分に可能です。50代からやりがいを奪われる傾向が強い大企業に固執するのをやめて、ぜひ中小企業の可能性に飛び込んでみてください。
いずれにせよ、中小企業へのキャリアチェンジには、自分の価値観や志向性の確認が不可欠です。本気で中小企業へのキャリアチェンジを検討している人は、弊社が開催する「無料セミナー」で、自分の進むべき道を考えてみてはいかがでしょうか。