定年後再雇用を拒否するのはアリ?40代から自立の準備をしよう

2021年4月1日から施行されている「高年齢者雇用安定法」により、現在勤めている会社で、少なくとも65歳までの雇用は確保されました。

しかし60歳の定年以降、継続雇用されている人の半数以上が嘱託・契約社員での契約であり、「仕事はそのままで報酬は激減」というのが残念ながら今の状況です。

こういう現実を見ると、安易に再雇用制度を利用するのは、少々危険な気がします。もし雇用条件が著しく低下するならば、再雇用制度を拒否して、自分で新しい仕事を切り開く選択肢があってもよいのではないでしょうか。

とはいえ、60歳を過ぎてからの転職や起業は、決して楽な道ではありません。そこで今回は、「前半:定年後再雇用を取り巻く現状・後半:60歳以降に自立して働くためのポイント」について詳しくご紹介していきます。

定年後の働き方に不安をお持ちの人は、ぜひ最後まで読んでみてください。

定年後再雇用の現実とは

定年後再雇用の現実とは

冒頭でも触れたように、定年後再雇用の現実は決して甘くありません。正社員のまま働ける人も一定数いますが、大多数の人は必ず労働条件が下がると思っておくべきです。この章では、そういった定年後再雇用を取り巻く現状について、くわしく解説していきます。

定年後も同じ部署で働く弊害

定年後の再雇用では、これまでと同じ部署で業務を継続するケースがほとんどです。60歳を過ぎた人に新規教育をして、新規業務を与えるのはどう考えても非効率ですから、このこと自体にはまったく問題ありません。

しかし元上司が同じ部署で働くと、元部下とのトラブルの可能性が大幅にアップします。再雇用では雇用形態にかかわらず、通常役職から退くのが一般的です。しかし役職がなくなっても、かつての部下との「元々の関係性」がなくなるわけではありません。

本人は気をつけているつもりでも、ふとしたときに、どうしても元上司としての態度が出てしまうものです。そうなると自分では謙虚に働いているつもりでも、なんとなくハレモノを触るような、居心地の悪い職場にもなりかねません。

それでも、元上司にうまく新しい役割を割り振りできれば大きな問題にはなりませんが、この辺は現役職者の能力や会社のサポートで大きく異なるところでしょう。

役職と報酬が下がっても、あなたは耐えられるか

さきほど解説した「元部下とのトラブル」は、役職がなくなったことによるトラブルですが、仕事内容と待遇のミスマッチも大きなトラブルの原因になりやすいです。

労働政策研究・研修機構のデータ※によると、44.2%の企業が、報酬の下がった定年後再雇用者に「以前とまったく同じ仕事内容」をやってもらうと回答。本来であれば、雇用形態が変わり報酬が下がれば、その分仕事の責任も減らされるべきなのに、実際にそうはなっていません。

こういった仕事内容と待遇のミスマッチは、働く意欲を大きく減少させます。低下した労働条件に対して本当に納得して働けるのか、事前にしっかりと検討しておく必要があるでしょう。

※参考:高年齢者の雇用に関する調査 | 労働政策研究・研修機構

人生100年時代。65歳を過ぎたらどうすればいい

まず結論からいえば、65歳以降も継続して雇用されるようなスキルと実力を身につけておくこと。もうひとつは、起業やフリーランスも視野に入れたキャリア構築が重要になってきます。

どうして65歳以降の準備が必要なのかというと、定年後再雇用では65歳以降に働ける保証がまったくないからです。もしかすると、そもそも65歳を過ぎても働く必要があるのかと、疑問に思う人もいるかもしれませんね。

しかし2018年に政府が発表した「人づくり革命基本構想」※には、65歳以上を一律に高齢者とみなすのは現実的ではなく、意欲のある人が活躍できるエイジフリー社会を目指すと書かれています。

ようするにこれからの日本では、65歳を過ぎてからも、働ける状況にある限り働き続けるのがスタンダードになるわけです。そういった時代がすでにスタートしているなかでは、報酬が下がり、なおかつ65歳以降の雇用も不確定な再雇用を安易に選択するべきではありません。

65歳以降も働ける実力を40代から身につけて、長期間働ける可能性の高い企業へ早めに転職をする方法も視野に入れておくべきです。

※参考:人づくり革命 基本構想 平成 30 年6月 人生 100 年時代構想会議

再雇用に頼らない!自立のためにやっておくべき4つのポイント

再雇用に頼らない!自立のためにやっておくべき4つのポイント 

定年後再雇用を取り巻く現状について知ってもらったところで、今度は定年後再雇用に頼らない働き方のポイントを4点ご紹介していきます。

まずはどこでも通用するポータブルスキルを磨こう

年代を問わずポータブルスキルは、仕事のベースとなるものです。どんなに飛び抜けた専門スキルがあっても、このポータブルスキルが欠けていると、企業からまったく評価されません。

ご存知のとおりポータブルスキルとは、「業種や職種が変わっても通用する持ち運び可能な能力」のこと。

厳密にいえば専門スキルもポータブルスキルのひとつなのですが、ここではわかりやすく「仕事のやり方」と「人とのかかわり方」についての能力と理解しておいてください。

60歳を超える年齢ともなれば、いくら役職から外れたとしても、社内外の人間と上手に付き合っていく人間力が必要です。

またある程度のキャリアを積むと、多少間違っていても仕事のやり方は誰も教えてくれなくなります。そうなると、ただ「あの人はできない人」という評価を受けてしまうだけです。

少なくとも、後輩に指導できる程度のビジネスの基本的な知識とスキルは、できるだけ早い段階で身につけておきましょう。

必要とされる専門知識と経験を身につけておく

65歳以降も必要とされる人材になるには、とにかく専門知識と経験を身につけておくことを強くオススメします。理由は単純。企業は転職者に、即戦力を求めているからです。

厚生労働省のデータ※を調べてみると、専門的な仕事では、「経験があり即戦力になるから」と「専門知識・能力があるから」という2つの採用理由が50%を大きく超えています。

さらに1,000人規模以上の企業では80%以上に跳ね上がっており、専門知識と経験がいかに重要視されているかがわかります。

また転職を考えた場合、専門知識と経験が豊富な人材を常に求めている、中小企業にターゲットを絞るのも賢い選択です。

中小企業は雇用条件が大手企業よりも劣ることが多く、どうしても一般的に敬遠されがちです。しかし中小企業で必要とされる人材になれば、末永く、それこそ70歳まで働くことも現実的になってきます。多少給与が低くても、トータルで考えれば、十分検討に値する選択肢といえるでしょう。

※参考:72 転職者の採用状況  | 厚生労働省

フリーランスや起業も視野に入れる

65歳を過ぎても働くのがスタンダードになるこれからの時代、企業で働くよりもフリーランスや起業の方が現実的かもしれません。

前述のとおり、定年後再雇用では、65歳以降の保証がまったくないからです。しかもいったん再雇用で働けば、いざ65歳から新しい仕事を探すのは、正直かなりむずかしいでしょう。

であれば40代から将来の準備をして、遅くても50代のうちに、新しい仕事に挑戦するのも悪くない考えだと思います。

ただしフリーや起業は、決して甘いものではありません。どういう分野にどのような戦略で望めば勝てるのか、まずは徹底的な自己分析が必要になります。

そのためには、第三者による客観的なサポートが不可欠です。第三者による客観的なサポートについては、次の項目で詳しく解説します。

第三者による客観的な分析が不可欠「自己分析ワークショップ」の活用

前項でお話ししたように、将来のキャリアを考えるうえで、客観的な自己分析が不可欠です。しかし自己分析というくらいですから、自分だけでもできそうな気はしますが、なぜ客観的な視点が必要なのでしょうか。

それは、自分で自己分析をすると、「正しい分析ができないから」です。

通常自己分析では、子どもの頃から現在まで、「自分の好きなこと・嫌いなこと・得意なこと・不得手なこと」などを振り返ります。その過程で自分の思考パターンや将来への気持ちが明確になるわけですが、独力だとどうしても自分に甘い分析になりがちです。

その点第三者による「他己分析」を組み込むと、自分では気づいていなかった(認めたくなかった)ポイントが明らかになります。

とはいえ、誰に他己分析をしてもらえばいいのか、おそらくあなたは途方に暮れてしまうでしょう。でも大丈夫です。私ども社会人材学舎では、キャリア開発のプロと一緒におこなう「自己分析ワークショップ」を随時開催しています。

長期的な活躍の場を求めている人は、ぜひこういった機会を活用して、しっかりとした自己分析をおこなってください。

再雇用拒否後の新たな人生設計について

再雇用拒否後の新たな人生設計について

かりに再雇用の拒否を選んだ場合、どういった状況が待っているのか、決断をくだす前にしっかりと理解しておく必要があります。最後に、再雇用を拒否した場合の人生設計について、ポイントを4つ紹介していきます。

働かない選択をした場合のライフプラン

定年後に再雇用を拒否し、働かない生活を選ぶのもひとつの選択です。実際、「もう十分働いたし、あとはゆっくりと過ごしたい」と考える人も少なくないでしょう。

しかし働かない選択をした場合、時間の自由が増える反面、金銭的な不安や社会的コミュニティとの断絶といったリスクは増加します。

仕事をしなければ、定期的な収入源は、年金のみという人が大半です。その年金にしても、受給開始は原則65歳からなので、60歳で定年した場合はその間の生活費についても考えておかなければなりません。

これから年齢を重ねていくごとに増えるであろう、健康悪化による医療費の増加も、大きな不安要素です。こまかいマネープランについては後述しますが、「収入源を失えばそのぶん生活のクオリティが下がる」という現実は、しっかりと頭に入れておく必要があります。

また、働く間は当たり前だと思っていたさまざまな関係性は、働くのを辞めると同時に失う可能性が高いです。とくに会社関係で繋がっていた、同僚や取引先といった人間関係は、基本的にすべてなくなると考えておいてください。

そのため、退職後にどうやって社会とのつながりを築いていくのか、退職する前に真剣に考えておくべきです。そのうえで、退職してしまうと金銭的社会的に厳しいと感じるならば、やはりなんらかの形で働き続けるほうがよいでしょう。

再雇用拒否後のマネープラン

定年後に再雇用を拒否するつもりなら、少なくとも以下の3点はクリアしておく必要があります。

  • 年金受給開始までの生活資金
  • 住宅ローン完済時期
  • 子どもの教育資金

総務省のデータ※によると、65歳以上の無職夫婦ふたり世帯の平均支出月額は約25.5万円、単身者は14.5万円だそうです。前述のとおり年金の受給は原則65歳からなので、少なくとも定年後5年間の生活費を確保しておかなければなりません。

60歳と65歳の支出はほぼ同程度だと推定できますから、夫婦ふたりの場合で約1,500万円、単身者でも870万円を最低限貯蓄しておかないと生活ができなくなってしまうわけです。

もし十分な貯蓄ができていないなら、どこかで大幅な支出の削減が求められます。1,000万円単位の貯蓄ともなれば、遅くとも50歳できれば30代から、投資信託や債権といった投資も必要になってくるでしょう。

もちろん退職までに、住宅ローンや子どもの教育資金は完了していることが大前提です。住宅ローンは、金利・借入期間・頭金の額などにより、返済金額が数百万単位で変わってくるため、徹底した事前のシミュレーションが必須になります。

教育資金にしても、すべて自己資金でまかなうのではなく、学資保険や奨学金の利用も検討してみてください。返済不要の奨学金もあるので、そういった制度を利用できれば、そのぶん退職後用の貯蓄へ現金を回せます。

※参考: 総世帯及び単身世帯の家計収支 | 総務省統計局

健康管理の重要性

定年退職後、新たなライフステージへ進むためには、身体的・精神的な健康の維持が不可欠です。いくらお金に余裕があっても、体の不調に毎日苦しんでいる状態では、豊かな生活は望めません。

定年後の再雇用を拒否して転職や起業を考えている場合、病気で思うように働けなければ、新しい仕事で活躍する可能性は閉ざされてしまいます。

病気の発症率について調べてみると、60代を境に大きく上昇しているのが明らかです。たとえば、脳卒中などの脳疾患※1は、2倍近くに跳ね上がっています。狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患※2も、女性の発症率は2倍以上です。

在社中は毎年欠かさず健康診断を受けていたのに、退職するとつい面倒くさくなり、受診を止めてしまう人も少なくありません。前述のとおり、60代になれば病気のリスクは激増するので、少なくとも年に1回の健康診断は必ず受けてください。

そのうえで、「栄養バランスの取れた食事」「適度な運動」「7〜8時間の良質な睡眠」を心がけていけば、定年後も問題なく元気に働けるでしょう。

※1:図表1-2-4 脳血管疾患患者数の状況 | 厚生労働省

※2:図表1-2-7 虚血性心疾患患者数の状況 | 厚生労働省

充実した人生は人間関係で決まる

人間は社会的な生き物であり、充実した人生を送るためには、他人との健全なコミュニケーションが不可欠です。

しかし、会社で一生懸命働いてきた人ほど、退職とともに人間関係が希薄になるのは避けられません。会社の看板を通してお付き合いをしてきた人が多かったのですから、これはある意味当然といえます。

でも、焦らなくても大丈夫です。会社以外のお付き合いの場を、退社前からつくっておけば、定年後にいきなり孤独にならずに済みます。もし今会社以外に居場所がないと感じているなら、まずは家族と過ごす時間を大切にしてください。

そのうえで、新しいコミュニティをひとつずつ開拓していけばいいのです。地域の集まりやボランティアもいいでしょう。趣味のサークルに参加してもいいし、なにか習いごとをするのも、新しい人間関係をつくるよいきっかけになります。

繰り返しますが、良好な人間関係は私たちの精神的な健康を守ってくれる重要な要素です。多少金銭的に厳しくても、健康に問題があっても、助けてくれる仲間が周りにいてくれれば、なんとかやっていけるものです。定年後の再雇用を拒否する人は、今からしっかりと人間関係を築いておきましょう。

まとめ

定年後再雇用は一見雇用者にも企業にもよいことばかりのように思えますが、現時点では65歳までの雇用が確保されたに過ぎません。いったん再雇用を受け入れれば、かえって65歳以降の仕事の確保がむずかしいという大きなリスクが発生します。

そういったリスクを回避するには、条件のよい転職や起業といった選択肢を選べるように、40代から専門知識やスキルを高めて準備をしておくことです。

一概に定年後再雇用が悪いわけではありませんが、いざというときに、定年後再雇用を拒否できる能力だけはぜひ身につけておきましょう。