第15回「人事の仕事とは」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり14年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で5年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第15回「人事の仕事とは」

あるクライアントからの依頼で、改めて人事という仕事を見つめ直す機会を頂いている。

ある著名外資系企業のHRヘッド。
「日本企業のHR課題は、年功序列、終身雇用という幻影に惑わされ、そんなことは不可能なのに次の手立てが見つけられないと嘆いていること。海外拠点に日本人を出したがること。本当の意味で、日本語で言うところの“理念”を共有し、仕組みができれば現地のことは現地に任せられるのに。

日本の外資系に本国からExpertが大挙して来ていたのなんて、30年も前の話。成果主義で評価だけを今まで以上に白黒つけたものの、それを個人のモチベーションにつなげられなかったように、欧米、特に米系企業の人事の進化の一部を取り出して、それだけをこねくり回すのではうまくいくはずがない。米系企業は大学等の研究機関まで巻き込んで真剣に人と組織を考えている。日系企業はそれを模倣するも換骨奪胎というか、実体としては回せてはいない。

外資がすべて正しいわけではないが、やはり進んでいることは進んでいるので、それを包括的に把握している人が、ゼロベースで人事を見直そうとしている企業に入り、かつ日本企業の特性も把握している人がそれをやれるとすごく新しいことが生まれる気がする。
とはいえ、外資系で、それも相応のサイズ、しかも日本に人事機能がフルにあった時代を知っている世代は、どうしても50歳前後より上になってしまうのだけれど。」

もう一方、彼も外資系企業の人事責任者。
「多くの企業が目指している姿も、抱えている課題も共通のものであり、その解決方法としてのツール、つまりは人事の方法論も多くは既に共有されている。それゆえにトップが本気で変革を推進し、それに応えられる能力と経験を有している人事のプロがいれば会社は変わる。

能力ある人間を採用し、その能力を認め、そして開花する場を与え、それを評価して更に…、というような循環を組織に埋め込めれば会社は成長する。」

そして、こんな方もいる。
日本を代表する企業経営者の下で人事改革を実行中の方。彼は元々人事畑ではない。
「イノベーションを起こせるリーダーをいかに育成するかということを人事の大命題とする。そのために優秀な人材の早期発見、早期育成のため、課長及び部長職の昇格年齢を下げる。

短期の業績は賞与に反映させ、ポジションの職責に対しての貢献を基本給、つまりは昇降格に反映させる。管理職以上の手当は全廃し、仕事に対して報酬を払うことを徹底する。

一選抜で課長部長と駆け上がった人が、制度的にはそこから再度一般社員のレイヤーまで下がることがある。部長、課長のみならずスタッフの三層から、毎年一定人数を次世代リーダーとして選抜し研修する。その中で特に経営層として期待値の高い社員は、40歳前後で子会社や海外現地法人の社長として出向させ、会社経営の経験を積ませる。

こう言うと、当たり前のことのように聞こえるでしょうが、これを“部長、それはちょっと”と人事プロパーの部下に言われながら、制度の細かい仕様に関しては彼らの意見を聞きつつも、制度全体の設計に関しては、どこか他社をベンチマークすることもなく、経営トップと二人三脚で考え作り上げてきました。」と。

まだこのサーチは仕事の途上ではあるが、改めて感じたことは、人事の責任者が、世界で最も優れたロジックを学び、それを実践する機会を得ることの素晴らしさとともに、一方で、自ら課題に真摯に向き合い、既存の何かに頼らず、自ら枠組みを作ることから始める思考力と実践力の大切さの双方である。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。