第14回「ある経営者からの学び」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり14年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で5年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第14回「ある経営者からの学び」

今日は、ある経営者の言葉を三つだけ。
採用をする企業の方にも、転職を考える人にも、示唆を与えてくれる言葉だと思い。
なお、元々著名な企業の経営者であり、起業家でもあられますが、あえて年齢不詳にするため言葉使いを思いっきりデフォルメしています。ちなみに私は10年を越える付き合いを頂いています。

「インターネット関連を除けば、ある意味、全くの新規事業というのはもうないわけだよね。そんな中で、それでも事業をやるからには大きくしたい、儲かりたいと思って色々と新しいことを考え、いや考える前にもう即始めるわけだ。
けど、どこの世界でも先行している大手がいて、それを追っかけている二番手、三番手がいるわけだけれど、自分たち新興組がそこに後から参入しようとすると、当然、その既存の会社からか、もしくは全く違う業界から採用するしかないわけだよね。
で、概して前者を多くの経営者は求めるわけだけれど、先行している大手と同じことを、そこでの競争に敗れた人間ばかり集めてやって、追い越せるわけがないよね。仮に元役員が取れたとしても部下は全然違うわけだから。冷静に考えるとそんなことは分かるのだけれど、どうしても紹介会社はそういう人を持ってくるし、人事部長とか管理本部長に普通の人を置いておくと彼らも同じような選択をしたがる。

スタート段階で、大手が何を考え、どう動いているかを知るには都合が良いかもしれないけれど、残念ながらその段階を過ぎて、後発新興組であるがゆえにより速いスピードで成長できるモデルが見つかる頃には、その人たちは残念ながらお役御免になっていることが多いんだな、申し訳ないけれど。
もっとも、中には明らかに前の会社がなのか、彼の上司がなのかは原因はよく分からないけれど、チャンと仕事させてもらってなかったみたいで、劇的に良くなる人もいるから業界出身が全てダメと言っているわけではないのだけれどね。

それに経営者とかリーダーとしてではなく、どうしても必要な機能の責任者としては、既存大手出身の人の力を借りたほうが基盤を早く整備できるし、その役割を担ってもらうという意味では、そういう人にぜひ来て欲しいし、長くいて欲しいというのは、後発組の勝手な言い分なんだけれど。」

「僕は大企業の人事部長じゃないので、いやいや、最近は大手じゃなくてもそうらしいけれど、あまり形式的なことは気にせずに推薦してくれていいから。
現在無職の人でも良いですかとか、転職歴は何回まで大丈夫ですかとか、年齢の上限は50歳くらいまでですかとか、聞いてくる紹介会社が多いけれど、その人が過去に何をやってきたかは極論すればどうでもいいんだよね。

結局『何ができるのか』『ウチの会社で何をしてくれるのか』ってことを僕なりに判断して『よし、この人ならイケる』となれば、現在無職でも、転職が少し多くても、それこそ年齢55歳でも60歳でも、構わないわけよ。
結局その人がウチの会社にもたらしてくれる価値が、対価を払ってでも良いと判断すれば採用すればいいわけだし。

そこの見極めが難しいからこそ、紹介会社の介在価値があるわけであって、レジメ見て、形式基準で採用するなら、ネットで完結できる世界になるけど、少なくとも仮にどんなに小さくても売上利益の責任を持ってもらう人、事業を任せる人、そして会社経営をお願いする人はそうはならないね、絶対。
だからレジメもその判断のために書いて欲しいし、面談もそのつもりで来て欲しいんだよね。」

「その場合に、また普通の人は業界経験とか気にしたがるけれど、そうじゃないんだな。直感的におもしろいと思えるか。チャレンジすることを恐れないか。失敗してもトライし続けられるか。そのスタンスが大切なんだよね。
それと過去を語るにしても、打率とか、奪三振の数ではなくて、足の速さとか、肩の強さとか、もっと素の力を知りたいというか。それを鮮明なシーンで語られると、“よし、採用”となっちゃうわけよ。

財務経理とか法務とかではなく、組織を動かすためということで言えば、営業や事業マネジメントは、大抵のことは本気でやれば40歳からだって、50歳からだって必ずキャッチアップできるからね。
マイケル・ジョーダンだって9000回シュート外して、300試合負けて、うち26回は彼のウイニングショットが外れて試合落としているわけだけれど、それこそが自分の成功のあかしだと言っているじゃない。もっともそこまで失敗されると、さすがにウチの会社では生き残れないとは思うけれど(笑)。」


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。