第13回「キャリアインタビューからの学びⅡ」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり14年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で5年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第13回「キャリアインタビューからの学びⅡ」

前回のある経営者のキャリアインタビューを通じて感じたことの第二弾。

当然のごとく、エグゼクティブサーチコンサルタントである私に、その候補者の方が次のキャリアの検討のためにと設定して頂いたその打ち合わせの本来の趣旨は、その方の職務経歴書作成のためのそのドラフトを作成すること。しかし一方で当然のごとく私の興味は、その方が現在のポジションで着実に成果を上げられているのはなぜなのか、にもあった。
それも経営者としての才覚というような、ある意味個人特有の能力ではなく、私が日々接する方々にも伝えられる、つまりは万人が学び、指針とできるような何かがないだろうかと。

今振り返ってみれば、ということなのかもしれないが、現在の企業経営者としての活躍のベースが、そこに至る過程で、実務としても、そしてモノの考え方として、こういう形で全てつながっていくのかと、ある意味感嘆に近い想いでその30年を超えるビジネスキャリアの話をうかがった。ウェブに情報が無いということは、彼自身は経歴を語り慣れているわけではないはずなのに。

しかし、彼だからなのだろうか。いや、結局のところ、転職先で活躍している人は、程度の差こそあれ、キャリアをうかがうと同じ印象を受ける。
つまり、意識的か、無意識かは別にして、その経験則は整理されており、今の仕事で使うべき経験値・能力が何かを明確に認識され、日々の業務に邁進されているのである。

強い企業文化を持つ会社で育った人や、トップスピードでキャリアを駆け上がってきた人が、得てして最初の転職で失敗しがちなのは実はここに起因する。
新たな組織での自らの立ち位置や周囲との距離感が見合わないうちに、自らそれまでの組織で身に着けた武器を全て振り回してしまうと、誰もついていくことはできない。使えるもの、使えないもの、そして使ってはいけないもの、使うに際して使い方を考えなければいけないもの、そこを整理さえすれば、成功は自らの手にある。

自分の経験値や強みを最大限活かして自らの仕事のアウトプットを最大化することだけが、成功の近道ではない。周りはあなたに何を伝え、そして何を求めているのか。そこを理解せずに走り出してしまうことは危険である。
外資系やオーナー企業だとそんなことを言っている余裕はないと言う方もいるが、拙速に事を進めると取り返しのつかない事態を引き起こす。

例えて言うなら、ゴルフにおいて、障害物や風向きを確認し、打つべき方向と距離を見据え、その上でクラブを選択し、構えがスクエアかどうかを確認し、かつ素振りをしてから打つように、である。
ゴルフをしなくなった私がこの例えを使うのには微妙に説得感に欠ける気もするが。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。