第6回「満たされぬ思い」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり14年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で5年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第6回「満たされぬ思い」

——今の仕事は刺激が少ないし、社内調整の仕事が多い。上からはともかく、周りの仲間たちからは、どうしたの、みたいな言われ方を最近するようになった。自分としては、出来れば顧客にもっと近い部署で刺激ある仕事をしたい。年収は下げても良いのでもっと面白い仕事がしたい。

——この一年、体半分というか、自分の持っている力の半分しか使わずに仕事をしている感覚なのです。もっとやれるし、やりたい。かと言って、No.2になってしまったこの会社でそのポジションを求めるのはもう無理な気がして。それで久しぶりに電話してみました。

——今の会社に来て3年。想定以上に成果は出ています。そもそも財務構造的に手が付けようがないのではと言われて、それでも自分なら何とかできると思い、打てる手を積み重ね、一歩一歩進み続けて、今期でボトムが黒になります。しかし迎えてもらったトップが相談役に退き、今の社長は事業には興味が無く、数字だけの人なので、成果を讃えつつも、どこか上辺だけで、釈然としない日々が続いています。そういう意味では黒字化を一つの区切りとして次の機会を探りたいと思って連絡しました。

全て上場企業現役役員の方との会話です。彼らは今まさに重責を負う立場にいます。しかしそれでも自らの想いを燃焼しきれない職責、立場に思い悩まれ、組織の中での評価、それも数字的なものではなく人と人とのつながりの中での、そんなことにもがき苦しまれています。

——いや、会社のルールだから仕方無いのです。確かにおっしゃる通り役員レースの最後まで残っていたのかもしれません。しかし今はタイトルをもうすぐ外される身です。会社の中にも何らかのポジションは用意されるのかもしれないし、仮に、「え、そんな仕事」というようなものであっても、ものは考えようで、与えられた場を楽しめるのかもしれません。しかし、出来ればもう一度、自ら没頭し、そして多くのメンバーとともに走りつつ、自らが所属する会社の商品やサービスを世に問う仕事がしたいのです。

——少し是々非々の発言を、まさに空気を読まずしてしまったのかもしれません。しかしこれだけの企業グループで、横串をさすような機能会社のトップを命じられて、事業会社各社に気を遣い、さらに空気なんか読んでいたら職責なんか果たせません。仕事の成果自体は業界団体や専門誌で取り上げて頂いたので、自他ともに求めるレベルではあったと思います。しかしそれと組織人として生きていくということは別物なのでしょうね。この歳でそれを学んだからといってどうなるものでもないのですが。グループ会社の監査役の仕事は用意されているのですが、正直不完全燃焼なのです。会社のサイズや、報酬等ではなく、私にそういう場を与えて頂ける会社はありませんか。

梯子を外されたというような軽い言葉で済まされる思いではなく、まさに全力疾走で駆け抜けてきたビジネスマン人生の最終コーナーで、自らの意志では無く組織のロジックで、走るという行為、想い、それ自体を取り上げられてしまう方もいます。

ここに記した方々は、私の目から見て、明らかに「仕事が出来る」方々です。
そんな方々に、その想いを遂げる場を提供することが、結果としてその方々を迎える企業にとって経営目標の達成であったり、経営課題の解決となる。そんな仕事もまた、私にとっては極めて大切な仕事の一つだと考えています。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。