第33回「新卒を採用するということ」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり15年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で6年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第33回「新卒を採用するということ」

著名消費財メーカー社長の話

「十年前は人事担当の役員をやっていて、その頃からいつも新卒採用の時期になると、こんな国の宝のような子供達を本当にウチで預かって良いのかと、結構真剣に悩んだ。彼らがその能力を開花させることが出来るような会社なのか、と。
そして結局今となって見てみるとその彼ら彼女らが、思うほど育っていないことに罪悪感さえ抱く。少なくとも、自分が社長である間に、自信を持って彼らを迎え、そして育てられる会社にする、それだけは肝に銘じているので、是非力を貸してください。」

消費財大手人事責任者の話

「業績好調を受け、毎年万単位の応募があり、その中から厳選して採用したはずの数十名の新人の成長が芳しくない。自分が見る目が無いのか。それともまずは現場配属と言うことで、営業や工場に配属してしましたが、結果そこで数年過ごしてしまう間に時速40キロで走ることに慣れてしまうのか。いっそ、いきなり海外に送った方が良いのではと社内で提案するも、まずは会社の理解からと既存役員からは猛反対される。果たしてこれは正しいのか。国内市場は間違いなくシュリンクするわけで、そこで人を育てても、と悩ましい。」

製造業人事担当役員の話

「国内は物を作る場としても、売る場としても既に主戦場では無くなっているのに、何故、この時期、こうして大量の学生を一括で採用しなければいけないのか。彼らにそれをどう説明するのか。惰性で、横並びで、新卒の学生に対峙していないか、いつも自問自答している。」

金融大手人事部長の話

「銀行にとってのリテールサービスの大半は、コンビニとスマホがあれば事足りる。法人融資でさえ、一定額以下の融資はスコアリングモデルで決済される時代がもう目の前まで来ている。損保はその半分の収入保険料を、自動車の自動運転の普及で失うかもしれない。金融はICTと親和性が高いが故に、変化はここから加速する。そんな状況下で10年後の姿は誰にもわからない中、本当にこんなにも大量の学生を囲い込んで良いのか。
真面目に考えると手も足も動かなくなりそうな中で、片目をつぶり、いやもう片方も半分くらいつむっているのかもしれない状況で走っています。」

新卒採用の大変化の鼓動が聞こえる。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。