第34回「経済合理性と社内政治」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり16年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で7年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第34回「経済合理性と社内政治」

ある大手製造業役員の方からの紹介で、同グループ会社幹部の方とお会いした。その方の面談冒頭の言葉が頭の中でこだましている。

「この春までは海外拠点で責任者をやっていました。帰国時に今の会社への出向となり、少し東京の生活に慣れてきたところです。
いや、体は少しずつ慣れてきたのですが、心はむしろ会社に慣れることを、少しずつ、そして明確に拒否し始めているので、昔の上司に相談したら、中村さんを紹介されましたので伺いました。お時間取って頂きありがとうございます。

これまで30年強この会社で働いてきて、国内外半々の経歴です。いや長期出張まで含めると3分の2は海外にいました。
ここ十年近く、会社の状況が大変なのはよくわかっていましたし、ある時期、もしかしたらやばいのではないかと思った時期もあります。しかしそれでもどこかで大丈夫じゃないかと思っていたのです。いや数字的なことだけ言えばまだ大丈夫だと思います。

それなのに何故、今、席を立って外の機会を探そうと思ったのかと言うと、それはあまりにも会社の社風と言うか、働く仲間の価値観が変わってしまったからです。
確かにこれまでも派閥らしきものはありましたし、私自身、上司も部下も好き嫌いが結構あった方です。
けど、それでも、如何に売上を上げるか、如何にコストを下げるか、そしてどうやれば利益が出るか、伸ばし続けられるか、それがまずあってのそう言う話だったのですが、今回、5年ぶりに帰国してみて、そうでなくなっていることに愕然としたのです。

つまり、それは誰が言ったのかとか言う経済合理性以前の社内政治的な価値基準で、かつそれは自分に取って損か得かで皆が動いているのです。
これで会社が本当に強くなるはずがありません。そして残念ながらそれを変えうる立場では無いポジションで帰国してしまったので、であれば外に出て、もっと経済合理性を優先して、稼ぐと言うこと、ビジネスをすると言うことにワクワクできる会社で働きたいな、いやそう言う会社に出来る立場で働きたいと思って、相談に来ましたので宜しくお願いします。」

会社の存在意義を問うているとさえ感じる言葉でした。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。