第38回「販売と言う仕事」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり16年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で7年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第38回「販売と言う仕事」

あるアパレル会社の社長から伺った話は、それまでの自分の先入観を完全に覆すものだった。それは大変失礼ながら、「販売と言う仕事」において、そこまで考えている人もいるのかと言う、新鮮で、ある意味衝撃的な驚きでもあった。

「もともと僕は学歴も大したこと無いですし、見てくれもこんな感じですから、まぁ、入社したものの、皆も大して期待してないこともよくわかるわけです。 けど絶対に他の人には負けたくない、その気持ちだけは人一倍強かったのは事実です。ということは、圧倒的に売り続けるしかないのです、僕のような人間は。
そのために必死で“お客さんが欲しいものは何だ”、“お客様が考えてることは何だ”とそればっかり考えていました。
そうこうしているうちに、お店に入ってくる商品を、次のような目線で自分なりに整理してみるようになってきたのです。

この服は、どういうシーンで着るものなのだろう。例えばビジネスで着るのか、普通の休みの日に着るのか、パーティーのような場に着ていくものなのか。
そして次に、この服はお客様のどんなニーズを満たすのか。少しだけ目立ちたい、無難で良い、ちょっとオシャレだと思われたい、などなどです。
その上で自分なりにいらっしゃったお客さんは、どこまでの価格を上限として考え、買うポイントはどこなのか、つまりお客さんは何に価値を見出し、それに対していくらの対価を払って頂けるのか。機能性なのか、トレンドなのか、着た感じの安心感みたいなものなのか、そういうものを自分の中で絶えず整理しながら接客する癖がついてきました。

もっと言うと、その整理したことを言葉に出すときに、いくつも試してみるのです。明らかに、時間潰しに来店された人と、目的を持って来られた人ではお店に入って来られた時の雰囲気が全然違います。
後者の方でも、「今日は何をお探しですか」が良い人もいれば、「お探しのものがございましたらお声かけください」と少し距離を取った方が良い人もいます。
前者の方でも、服を見ている間に、ふと「そう言えば○○が欲しかったんだ」と思い出される人もいます。それも実はわかるのです。入店された時と明らかに表情が変わりますから。そんなこと言うと怖がられちゃいそうですね(笑)。

そういうことをずっと考えながら、毎日入ってくる商品をキチンと整理して、その前提で日々またそういう目線で、言葉にも工夫を重ねながらお客さんと接していれば、それは普通にただ真面目に働いていますと言うレベルの仲間達の倍は軽く売れます。
更にそのベースの上で、お客様の気付いていないような提案まで嫌味無く出来るようになれば、所謂ダントツの世界に行けるわけです。

結果としてその後、お店を預かるようになり、そして商品部門も経験し、事業全体を任されるようになった時も、どう言うお客さんに、どう言う商品を、どう言うポジションで提供し続けるかをいつも考え続ける。一度決めたらそれでお終いではない。個人も、お店も、事業も、強みをより強くしつつ、弱いところは絶えず改善していけば必ず“売り”がついてくる。そう信じて、走り続けた結果が今の僕です。」

小売りの世界の人には当たり前の話なのかもしれない。しかし、私には、そうか、そこまで考えてやっている人もいるのだと、モノを売るという仕事の奥深さを痛感した時間でした。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。