第37回「先輩の言葉」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり16年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で7年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第37回「先輩の言葉」

誰もが知る日本を代表する大企業の執行役員一歩手前の部長の方を、これもまた誰もが知る違う大企業の新規事業部門の中心人物としてスカウトして、その話が進む過程でその候補者の方にこんな話を伺った。

「10年ほど前、30歳代後半だったと思うのですが、自分にとってメンターと言えるような大先輩に次のようなアドバイスを頂いたことがあります。

“部長になって数年すると、社内における調整力をつけて、それで昇給昇格するか、もしくは、社外に、世の中に対してバリューを生み出し続ける人間であり続けるか、その大きな岐路に立たされることがあります。
その時、私はあなたに、迷うことなく後者の選択を薦めます。調整役であると言う事は組織にはとても大切なことです。当社のような大企業においては、そういう役割をちゃんと担ってくれる人材も育たないと、仕事が、組織が上手く回らなくなることもよくわかっています。
しかし、やはりビジネスマンである限りにおいては、行為者であり続けること、自らが動いて何かを生み出し続けることをこと、それにこそ喜びがあると私は思います。いや、少なくとも君はそちらに喜びを見出すタイプだと思いますし、その方が得意なはずです。

その判断と言うのは、社内異動の打診に際してだけでなく、必死に働いていたら社外から声がかかるということもあるはずです。
その時、この会社にとって今以上に必要な、大切な人材に成長していても、いや必ずそうなっていればいるほど、そういう可能性も高くなるわけですが、その際も躊躇することなく、社内で後者を選択することが難しければ、私は外に出るその話の方を勧めます。
短期的な目線では、それは会社にとっては損失かもしれませんが、より大きな目でみれば、それが貴方のみならず世の中にとってもプラスなはずですから。”

そんな内容の言葉だったと記憶しています。当然、どんな話でも良いわけでは無く、中村さんから声をかけて頂いた際に、もしかしたらあの会社かな、と思い、そうであれば席に着こうと思ったのは事実です。違う会社であれば、あの日、初めて中村さんにお会いした際にお断りしていました。
しかし、会社の名前を伺ってから、ずっとこの10年前の先輩の言葉が、改めて私に語りかけてくるのです。」

そんなアドバイスを面と向かってしてくれる先輩の存在、そしてそのアドバイスを10年経っても明確に覚えていること、そんなことが少しうらやましくも思えるこの瞬間は、人と人を、人と組織を繋ぐ仕事をしている私にとって、喜びの瞬間でもあります。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。