第36回「イメージすることの大切さ」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり16年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で7年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第36回「イメージすることの大切さ」

ある方の紹介で、日本を代表する大企業の内部監査の中堅初級管理職の方とお会いする機会があった。その会社は内部監査の体制においては、組織陣容が圧倒的に充実しており、その方自身も、若くして内部監査の部門に異動となり、かれこれ十数年が経過して、知識、経験とも、同世代で言えば圧倒的に上位数%に入るようなレベルの方であった。

なぜそのような経歴の方が、私のような職業の人間に会いたいとおっしゃったのか。先にレジメをお預かりして、このままいけば十二分に内部監査の部長ないしそれに準ずるポジションとなり、その上で常勤の監査役と言うポジションも、本体に限定さえしなければ、複数のグループ企業を所有しているこの会社においては、約束されていると言っても過言では無いような経歴の方である。

その方のご相談と言うのは、実は次のようなことでした。

「最近、中村さんのような職業の方から声をかけていただく機会が随分増えてきました。それはそれで嬉しくもあり、中には本当にご丁寧にコンタクトをして来て頂いた方とはお会いもしております。
 決して今の会社や今の仕事に不満があるわけでは無いのですが、そう言った方々から、“今度上場するこんな会社の監査の仕事をお願いできませんか”とか、“この会社は間違いなく急成長しますが、それであるが故に守りを固めると言う意味で優秀な内部監査の方の力が必要なのです”等々の魅力的なお話を伺ったことが何回かあり、そういうのって実際、一体どういう世界なのだろうと、一度、冷静に教えて頂ける方がいないかと思っていたら、中村さんをご紹介いただき、今日は凄く期待してお伺いしました。」とのこと。

具体的な話をする前にプロフィールを確認したところ、共働きで、住宅ローンの残債も少なく、そういう意味では人生において背負っているものがそれほど重くは無いようなので、どうしてもやりたいと言うことであれば止めはしませんが、と言う前提をつけた上で、次のように説明をした。

「今の内部監査の仕事と言うのは、例えて言うと阪神対巨人戦を行った後の甲子園球場のグランドを、充実した相応の数のスタッフが一丸となって、一斉に手際よく整備するような仕事だと思います。確かにイレギュラーなことも多々あるかも知れませんが、それもある程度想定の範囲内のはずです。
しかし声をかけられているような、株式公開前の会社の内部監査の仕事と言うのは、全く未開の地で、まぁ大きな岩があり、草も生え放題とまでは言いませんが、それでも相応にまだ荒れており、凸凹と言う次元を超えた山があり、それでもしかしたら古い車や機械が捨ててあったりと言う、そんなところを、チームではなく、自ら腕まくりして一人で必死に汗をかいて整えていくようなそんな仕事です。

つまり同じ言葉にすれば“内部監査”と言う4文字の仕事であっても、実態は全く違うものです。それをイメージしてみてください。イメージが的確にでき、自分でやれるということであればトライされるかと言うのもありかもしれませんが。」と言う言葉に続けて、私が実際に見てきた上場前の会社の実態をいくつか説明したところ、目を白黒させながら「それは自分にはとても無理です。本当に今日はありがとうございました。お話をお伺いできただけで十分です。しかしいずれ私ももしかしたらこの会社を去ろうと思う時が来るかもしれません。その時は是非私にふさわしい、私が仕事をちゃんとイメージできるような会社をぜひご紹介ください。」

そう言って帰っていかれたのだが、少し脅しすぎたかな。
けど、当該企業の成長のステージ次第で、同じ部門やタイトルであっても、仕事は全然違うということを前提に、このイメージすると言うことが、転職に際して最低限必要なことだというのが、わかって頂けたのではと思うのだが。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。