第28回「達人に学ぶ」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり15年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で6年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第28回「達人に学ぶ」

御年70歳手前、私がこの業界で仕事を始めた当時からお付き合い頂いているので、そろそろ15年を超える期間、主としてクライアントの管理担当役員として、そして私が業界の中で会社を変わった際には、数多くの方々をご紹介頂いた方と先日ランチを。

実は、現在の会社の退任報道に触れ、50歳前後の初めての転職から、既に4社目のはずで、私としては流石にそのご年齢から「本当にご苦労様でした。今後は是非、社外取締役か監査役を提案させて下さい。」と言うつもりでお誘いしたのだけれど、「今日は有難うございます。また7月から新しい会社です。」と。
その方との1時間半ほどのランチからの学びに、少し言葉を足しつつ。と言うのも、多くは語られない方なので。

「自らも何度か転職され、一方で管理本部長みたいな立ち位置で多くの転職者を見て来られたと思いますが、成否の分岐点みたいなものってありますか?」との問いに。

「多くの転職者を見てきたけれど、偉ぶらず、卑下もせず、普通にフラットに話ができるかどうかが一番大切なんじゃないですかね。年齢とか何とかあるから、まるで昔からの同僚のようにと言うことではなく、普通にわからないことを聞き、学ぶ姿勢があることが大切なのに、それが出来ない人が実は多いんです。
と言うか自分の経験則の中からの中途半端な情報でわかった気になる人は大体滑り出しで躓かれます。話を聞かず、酷い時はかぶせるような話をされてしまうと、次からその人は話をしようとしないですからね。」

「コミュニケーションのスタイルも、上下関係を作りたがるタイプや、上から目線、上からの口調の人や、上席がいるかいないかで態度が変わったり、そう言うのが全部ダメです。
そういうことに関しての学びが何故無いのか、不思議なんですが、概して新卒で入った会社に50歳前後までいて、ある程度まで偉くなったりすると、何か勘違いしちゃうんでしょうね。
採用に立ち会った人事部門や、その人を是非にと口説いた社長には、その人の過去の肩書、経歴は意味があるけれど、現場の人には、極論すると何も価値がないですから。 突き詰めていくと、この人は自分にとって、そしてこの会社にとって、プラスかマイナスか、一緒に仕事していて楽しいか否か、そこが一番大切なんだと言うことは別に普通に考えればわかるわけで。」

「もっとわかりやすく言えば、机に座って指示をしない、資料や情報を要求しない。現場に行ってみる。それも一日だけじゃなくて数週間でも、極論すれば数か月でも。
そして素直にそこで現場の方々と一緒に仕事をする。わからないことは質問する。仕事が終わって誘われたら飲みに行って歓談する。ランチでもいいのですが。そういう場で得る情報の中に、入社時の面接ではわからなかったことが沢山ありますから。
そしてその後、自分で動き始めるタイミングでも、自ら手を動かす、自ら考える。あてがいぶちを待たない。こう言うと全て当たり前のことなんですが、それでも実はできない人が多いんですよ。」

「結局のところ新しい職場、新しいビジネスを楽しめるかどうかがとても大切だと思います。
それはもっとわかりやすく言うと、新しい会社、新しい商品やサービス、それを学んで、そして学んだことを口にしたり、やってみて、そうすると自分が理解していない部分が良くわかるので、そうしたらそれをまた学ぶ。そんなことを繰り返しているうちに、周りとの距離感も良い感じになってくるはずなんです。
社風や、価値観が違うのは、会社だけではなく個人だってごく当たり前なわけで、そこを苦に思わず、認め、その上で自分の立ち位置を決めていく。普通のことなんですが、これが転職直後は意外と難しくて、それで苦労してしまう人が多いのは事実です。
かといって、そこに秘策があるわけではなく、そう言う違いや学ぶ過程を全てひっくるめて楽しんでしまうと言うのが、結局のところ、一番良いと思います。」

今回のランチに限らず、この方からの学びは本当に尽きないのだが、今日のところここまでと言うことで。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。