第27回「社員への想い」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり15年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で6年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第27回「社員への想い」

少し前になるが、ある日本を代表する重厚長大企業の副社長との会話から。

「現状、55歳の部長のポストオフは、関係会社にでるか、元部下の下でスタッフ業務をやるか。60歳で再雇用となるとかなり、またここで報酬が下がる。
現在社内で検討しているのは、65歳までを見据えて、賃金の総面積を一緒にしつつ50歳以降の賃金カーブを緩やかにすることとともに、会社の期待値と、本人の役割の調整が大切。
55歳でポストオフになっても、ラインの中に組み込み、忙しく働ける仕組みを作り、この会社には自分が必要と思える仕組みが必要。
55歳のポストオフ対象でも当然の如く能力の高い人は沢山いる。彼等が65歳までモチベーションをもって成長し続け、定年の日にCapabilityが史上最高の状態で退職するのが理想。」

その際のモチベーションマネジメントの考え方として、副社長が以前通っていたNRIの勉強会で学んだVOICEアプローチの話に。Webで検索するとこんな説明が。

V:Value;職業や事業のミッションへの共感と、日々の仕事がそれにどうつながっているかの理解。
O:Opportunity;その道のプロとして成長する機会があるか。留学や海外勤務エントリー制度等含め。
I:Innovation;仕事の進め方において創造性の発揮機会は。創造性を重んじる社風であると言う社内外の評価はあるか。
C:Communication;風通しの良さ。最終決定は職位に基づいてなされるにしてもその過程で社長と新入社員が対等な議論が出来るか。
E:Empowerment;権限移譲は進んでいるか。責任は上司が採るにしても3年も経てば一人前の仕事を任せられていると実感できる職場環境か。

「この視点でモチベーションに配慮しつつ、入社時から社員の育成に注力し、それで外から声がかかる人も多数出てきて彼らが巣立っても残ったメンバーが更に成長するような組織であることが大切。55歳からではなく、入社時から社員の育成を最重要課題とすることこそ、会社にとって最優先のCSR、企業の社会的責任だと思う。
 そして今のような時代の変化の中にあっては、縮小していくが会社にとって現状主要な事業を彼らに、そしてまだ頭が柔軟な若い人が新しい事業に取り組むことで、世代間の移行と、会社の事業ポートフォリオの組み替えを効率的に行える。もっともそれもベテランと若い人のバランスの問題で、極端に偏った配置をすると言う意味ではないのだけれども。

ちなみに自分自身、実務の経験ではなく物事を考えるフレームワークは、40歳代半ばにグッと伸びたと実感しているし、50歳を回って経営課題に関しての解決策がスラスラと出てくるようになった。だからこそいうのだけれど、この領域はまた違った目線で評価をしておくことも大切。人材と言う素材を埋もれさせない為にね。」

「最近弊社への依頼で増えている、役員又は役員一歩手前の人材に、他社で活躍の場は探せないかという問い合わせに関してはどう思われますか。」

「そう言う有為な人材の能力は社会として活用すべきだから、仮にその会社で十分ポジションが用意できなくなっても、厄介払いではないと言うメッセージを正確に伝えつつ、当人がそもそも市場価値を理解していないので、そこをプロの力を借りてチャンと意識させ、出来ればパッケージを用意することで背中を押してあげる。そうすることでそう言う人達の能力が活かされると言うことは社会的にも十分意義があると思う。」

こういう方に会えるから、この仕事で16年目を迎えても、飽きずに日々仕事に邁進できます。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。