第29回「マネジメントスタイル」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり15年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で6年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第29回 「マネジメントスタイル」

あるインターネット関連企業の執行役員の方の愚痴でこんな言葉があった。

「うちの経営陣は、もう新しい技術とか、新しいビジネスの流れに付いて来ることが出来ていないのです。
それでも昔、まさにこの会社がベンチャーと言われた時代からいて、ある時期までのこの会社の成長を支えてきたのは彼らだと言うことはよくわかっています。
とは言え、技術にもビジネスにも付いて来ていない人たちが、執行の現場に降りてきて口を出されると流石に仕事がしにくいと言うことを残念ながら、わかっていないと言うか。
であれば、偉いままでいいから、せめて口を出さないで下さい、と何度も喉元まで出かかっているんですが。」

その答えと言うわけでは無いが、ある大手メディアのCOOとの面談で、一通りビジネスミーティングが終わった後に、
「先程伺った通り、これだけICTの技術革新が進み、また関連と言うか近隣で、しかも国内外で多くのベンチャーが生まれる中、COOとして如何にマネジメントをしようとされているのですか?」
との当方の質問への答えが秀逸でしたので、参考まで。

「私自身は細かい指示はしません。ある程度現場に任せないと、新しい発想も出てこないし、ビジネスも広がりませんから。ましてこんな時代ですしね。
組織においてはどんな人も、上に行けば行くほどNOを言いたくなるものです。企画書を持ってこられて、どうですかと聞かれると、とりあえず気になる点を突っ込んでしまうのは、それはその人が悪いわけではなく誰でもやってしまうわけです。
だから現場には途中で上司と細かく相談していると、企画自体、角が取れて丸くなってしまい、本来自分がやりたかったこと、尖がったことから遠くなってしまうから、自分なりに限界まで考えて詰めた段階で、それも“どうでしょうか”、ではなくて“これでやらせて下さい”と言ってくるように指導徹底しています。

そこまで腹をくくらせると意外と8割ぐらいは通ってしまうものです。
自分自身の育った環境で、プラスもマイナスも皆、経験の上の提案なわけですから、基本的には“上司たる者、任せて責任を取る”と言うスタンスでマネジメントしています。
けど、どんなに真剣に考えてきた案でも、甘いと思ったらNOとも言いますし、突っ返して再考させることもありますよ、当然ですが。
その際に的確な判断ができているかは、正直、特に新しい技術やサービスに関する際は、心もとない時もあります。
その判断の為に、必死で自らも学んではいますが、究極わからないときでも、部下が不安にならないように、自信を持ってイエスもノーも発します。

あまり細かいことを言わず、若い人達がその力を最大限発揮できるようにした方が、今は会社が伸びると言う時代故に、このポジションに自分のような人間が座っているのかなと考えています。
だから、この立場になったからと豹変したりしたら、全く意味が無いし、自分にもそのつもりは毛頭ありませんしね(笑)。」と。

実はこの会社、必ずしも業界トップでは無い。しかしこれからの数年が凄く楽しみになる、そんなコメントでした。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。