第8回「数字で考える癖、現場を見る習慣」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり14年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で5年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第8回「数字で考える癖、現場を見る習慣」

「若い頃、財務部門に行かされて、こんな性格だから机仕事がしんどくてですね。」と語って頂いたある大手流通業の社長。彼は創業者では無く、いわゆる一サラリーマンとしてビジネスマン人生をスタートさせた人である。

「それまで店舗にいて、いきなり財務ですから、最初はとにかく言葉覚えるのに一生懸命で。しかし少しずつ理解してくると、今度は財務の知識と実際の現場との間で疑問が生じ始めるわけです。先輩が、“ちょっと在庫増えていない”とか言っていると、関連する数字を時系列で並べてみて、それだけだと自分のようなタイプはまだ釈然としなくて。
それで皮膚感覚でわからないと気が済まないので、休みの日に昔いたお店に行って、まさに店頭からバックヤードまで在庫を見て歩いたり、それでもまだ納得できずに次の休みには今度は物流センターに行ったりするわけです。
すごく原始的に思えるかもしれませんが、最初はそんなところから始めたんです。しかしそれがある意味で自分の職業経営者としての人生のスタートだったように思います。今そんなことがすべて許されるのかはわかりませんが、自分の場合はとにかく、少しでも疑問に思うことは、まずは関連する数字を把握して、それとともに現場を見て、ということが習慣になっているんですね。」

なぜ現場を見ることが大切か、わかりやすい話をしますね、と語って頂いたのが次のような話。

「コンビニとかドラッグでアイスを売っているでしょう。平均単価を取ると例えば150円とかになるのです。で、そういう数字が企画の会議とかでは出てくるんですね。それであまり現場を知らない営業企画のスタッフなんかは、150円の商品をもっと強化しようと言いだすわけです。
けれど、あくまで平均ですからね。縦軸に数量とって横軸に単価を置いてグラフ作っても、150円のところをピークにした正規分布のグラフなんかできないわけです。ガリガリ君みたいな60〜70円くらいのと、ハーゲンダッツかなんかの200円を超えてくるところに、二こぶや三こぶできるグラフになるわけです。
一事が万事ではないですが、現場を見ているとわかることと、財務部門や企画部門がまとめた数字だけ見ていて判断することって、結構ズレるんですよ。」

これはある部品メーカーの社長からうかがった話。ちなみに彼は財務部門の経験は無い。

「この会社に来て、最初に数字を見てみるとその時点で疑問点というか、問題点はある程度わかりました。けれど、その時点でいきなりそれを口に出すことはしませんでした。そう、現場を見なければ、ということです。
明らかにこの製品の原価は高いが、それはなぜか。工場の稼働率はどうなのか。不良品の率が多いのではないか。そんなことを数字の報告を受けながら自ら現場を回って確認します。
そしてそもそも競合他社はこんな価格で売っているのか。そうでないならなぜこの価格なのか。営業部隊が弱いのか。商品に独自性や、希少性、比較優位はないのか、それを会議室の中でスタッフにだけ聞いているのではなく、自ら現場を回って、そこで話を聞き、疑問を投げかけるんですね。
そうすると最初に抱いた疑問が、より具体的に現実の問題としてわかるだけではなく、疑問点や課題が相互に結びついていて、どの順番で手を付けるべきかが見えてくるのです。」

当たり前すぎると言えば当たり前な話ですが、それでもこの「数字で考える癖、現場を見る習慣」は、マネジメント人材にはとても大切な「習慣」だと私は思います。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。