第11回「自走力」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり14年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で5年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第11回「自走力」

急成長が続く、売上数百億規模のある部品メーカーの社長と、候補者の方のレジメを前にしての会話から。
ちなみにこの会社はいわゆるオーナー企業だが、歴史も古く社長は数代目。しかもこれまで幹部層の補充は取引先からの出向者でなんとか間に合わせてきて、もう限界というところでのご相談。従ってご多分に漏れず、会社に技術はあっても、経営や管理の仕組みは殆どない。

「この方は今の会社で5社目ですよね。こういうのはいわゆるジョブホッパーというのではないですか。」
「彼はジョブホッパーでは無いです。言葉の定義はいろいろあるとは思いますが、少なくとも、仕事が出来るかできないかがバレないギリギリのタイミング、つまりは2、3年おきに頻繁に転職を繰り返しているわけでは無く、一社を除くと全て5年以上の経験があり、私のヒアリングの限りでは、少なくとも入社時に会社側と約束した職責、ミッションに関しては、期待以上の成果を出した上で次の会社に移られています。
3年もあれば一定の成果は出せますという方もいますが、3年で成果を出すというのは結構勢いでやっているようなところもあるので、そこから再度2〜3年やると結構その人が本当にどこまでできるのか分かるというのも事実です。」

「逆にこういう大企業だけという人も採用する側は少し怖いですね。」
「確かに45歳以上の管理職クラスの採用となると、以前はよく転職回数に上限を設定される会社が多かったですが、最近は逆に転職経験ゼロの候補者の方を敬遠される事例も増えています。歴史ある大企業はともかく、その年齢の層の人を求められる企業にとってみると、ウィンドウズがあってこそ動くワードやエクセルではなく、OSが無くても動くソフトの方が良いというか、仕組みがあってこそ動くのではなく、どんな環境ででも自ら動けるということが大切なのだと思います。」

「そういう意味では大企業出身者の方でも、買収先への出向や、海外現地法人の、それも自ら立ちあげの経験等があるこの方のほうに魅力を感じますね。」
「外形的に言えば、確かにそういう経験をしていると、出来上がった仕組みを回そうにも仕組み自体がまだ無かったりしますので、自らそれを作って動かしたという経験はされています。しかし部門としてそういう経験は無くても、いつも自ら主体的に考え、自問自答しつつ、かつ現場に入って仕事をされている方であれば、それはそれで50歳にして初めての転職という方でも新しい会社や組織にフィットして、ちゃんとパフォーマンスを出されます。」

実はこの社長の隣に座られている、取引先から数年前に出向で来られた副社長からは事前にこんな言葉をお預かりしている。
「サイズは相応になっていますが、オーナー企業でかつ急成長企業ゆえの組織の未成熟さの中で仕事が出来ることを必須条件としてください。ごくわかり易く言うと、指示しただけでは現場は動きません。自ら実務がわかり、手を動かせ、まさに、やって見せ、がとても大切です。もっと言うと、最初はその方の言葉を社員は理解できませんし、社員の言葉を新しく入社したその方は理解できないくらいの覚悟が必要です。つまり組織ありきではなく、自らの力で走る力がとても大切です。そうしているうちに言葉が、そして心が通じ、組織も動き始めますから。」

大企業から中堅企業への転職の際に求められるのが、まさにこの「自走力」である。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。