第40回「地方勤務」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり16年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で7年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第40回「地方勤務」

もうすぐ50歳と言うあるメガバンクの方からの相談。会社から、元々の出身地に近い上場企業の管理部門への出向打診が来ているのだが、どうしたものかと。

個人的な事情を考慮せずに言えば、是非受けるべきではとアドバイス。当然、こういうことに正解は無い。最後の選択されるのはご本人であるが、あえてこんな考え方もあると言うことで。

そもそもバブル世代の彼にとっては、同世代が極端に多く出向受け入れ先の絶対数の問題がある。加えて、その後に続く世代の採用を極端に絞った為、受け入れ先がなければ現場を回すために50歳代半ばまで銀行にいることになり、その時点では出向も、転職も今以上に困難になる。

そんなことは重々承知の上で、それでもこれを蹴っても再度通勤圏の出向先を銀行が用意してくれるのでは、とか、もしくは都内本社のグループ会社に行けるのでは、と言う期待を持ってしまうと言うのもよくわかる。しかしそうこうしている内に、同じように年齢は重ねて行ってしまうわけで。

弊社経由で思い切って地方に行かれた方にも確かに悲喜こもごもはある。しかし、子供がある程度の年齢になっていれば、それは親としての責任ではなく、自分の人生をどう生きるかと言う話であり、仮に5年後を想定して、この話を蹴って55歳のいわゆる一般的な銀行マンと言う姿と、55歳地方本社上場企業、取締役管理本部長と言う姿の、どちらが市場価値があるかと言えば間違いなく後者である。

当然、それをより確実にするために、「銀行マンには経理は出来ない」と言われる実情を最初から受け入れ、真摯に経理も学び、財務もデットは重々理解されているはずだから、あとは証券会社の担当支店若手法人担当を捕まえてエクイティも必死で勉強し、加えて、人事総務や法務も、必死に学ぶ。当然、東京にいるよりは通勤も短いし、付き合いも減るから時間はある。自分をある程度律しさえすれば。

そしてその必死に学ぶ姿を見て、社長はじめ経営陣も、部下となるメンバーも、好意的に受け入れてくるし、その努力が積み重なった5年後は、明らかに違った自分に会える。そして普通にそのような時間を過ごせば、その会社とその街のことが好きになっているし、ずっとそのままここにいようと思えるだろう。そして、その先も常勤監査役になり、非常勤監査役まで務めると結果的には70歳前後、ビジネスマン人生を全うできる可能性が高い。

仮にどうしてもやはり東京に戻りたいと、いや戻らざるを得ないとしても、その5年間の後であれば、明らかに銀行にしがみつくよりは、かなり高い確率で次は見つかる。

最後に、ここまで書いて思うのは、どこに、どんな会社に行くか以前に、いくつになっても学び続ける、自分を磨き続ける覚悟が決まれば、選択肢は無限大のような気もします。これは自省の念も込めて。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。