[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり16年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で7年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。
第35回「同じことを繰り返さない為に」
失敗から学んでこそ、その失敗を許容し、次のチャンスが与えられるはずである。人も組織も。しかし組織の場合は、再び、チャンスは与えられるのだろうか。
ある小売業の社長をされている方は、以前の職場で、社長候補として期待されながら、その前段階で、店舗運営、つまりが営業の責任者をしている際には、「商品部が悪い。あいつらがろくな商品作らないし、仕入れてこないから、店はいい迷惑している。」と言う言葉と、商品部の責任者をしている際には、「現場でお客さんに接している店舗の連中が、真剣にもっと売ろうとすれば、こんな数字になるわけないのです。」と言う言葉の双方を、反論もせずただひたすら聞いている内に、彼自身がそう言うコメントをしていると言うことになってしまい、社長になることなくその会社を去られた。
しかし、先日お会いした際には、今はその時の学びを大切にされ、現場の、各部門の声には耳を傾けつつも、ただ聞くだけではなく、ひたすらシンプルに「何故そう思うのか」「会社としてはどうすれば良いのか」「自分にできることは何があるのか」と絶えず問いかけ続けることで、批判者を増やさず、自ら考え動ける社員が増えていると、にこやかに語られていた。
一方、組織が学ぶことは本当に難しい。ある大手企業から十数年前に成長企業に転じられた役員の方からの相談は、組織が学ぶことの意味を考えさせられる。
「長い間、管理本部長として会社の体制を整えて、数年前には一部上場までしました。その過程で、財務経理や人事総務の実務体制を整えることは当然の如く、会社内の組織や会議体の整備のようなことから、グループ会社を統廃合し、本業に関係ない会社は売却し、本当に、一部上場足りうる、そしてこの会社が永続的に繫栄し続ける基盤を、ある程度作れたと自負していました。
しかし海外事業再構築が会社にとって大命題と言うことになり、自分にその白羽の矢が立ち、今その職責で仕事をしていますが、実は管理部門がグダグダになって来ています。自分が築いたものが音を立てて崩れていくのを見るのは本当に精神的に良くない。
当然、役員として、言うべきことは言っています。そしてやってはいけないことには必死でブレーキを踏んでいるのですが、最後は社長と、部門の責任者の判断となり、止められないことも出始めているのです。
そしてこのまま数年過ぎると、ある日社長に呼ばれ、また同じ後始末をやらされること、つまりは同じようなことを改めて再度やってくれと言われることは目に見えており、それは自分が希望する仕事ではありません。
こうして思うのは、新卒で入った会社が、あれだけの歴史を経て、今も隆々としているのは、こういう同じミスはしない風土と言うか文化が出来上がっているからなのだなと、改めて痛感しますし、そう言う会社に、是非、今の会社もしたいのだけれど、自分に第一線のビジネスマンとして働ける時間は限られているので悩ましいところです。」
同じ間違いを繰り返さない、極めて当たり前のはずのこのことを、組織においては誰が担保すべきなのだろう。
(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。