知命塾を受講して[CASE3]

[CASE3]実績を買われて近接異業種へ


降格人事を機に退職、思わぬオファーも

Hさん(40代女性)の場合

Hさんは女性向け漫画を中心に手がける出版社に勤め、電子書籍やアニメ化の著作権事業で実績を重ねてきた。
在籍12年の間に、権利事業においては社内だけでなく業界全体に知られる存在となっていた。


理不尽な降格人事

そんな中、突然会社から異動と降格を言い渡される。一時的に赤字決算が見込まれたことが理由だった。

「一時的とはいえ、赤字決算が見込まれたことを重視し、過去のすべてが間違いであったという前提で組織と人事を見直すとの方針でした。異動が言い渡された時点で、既に赤字見込みは解消されていましたが、結果がどうなったかよりも一時的な現象を理由にして、実質的に更迭されたというわけです。社内のほぼ全員が驚いていました」

経営陣はHさんを降格させたものの、名刺の肩書は降格前の『部長』のままだった。
降格が妥当性に欠けるという負い目の自覚があり、社外に対するカモフラージュが必要だったためではないかと、Hさんは受け止めている。

この出来事を契機に、Hさんは会社との関係性を見つめ直す。

「もともと私が大きくした事業は経営陣が一度は放り出した事業。それを始末するような形で引き取りながら結果的に大きく伸ばし、業界でも目立つ存在になってきた私が、経営陣にとっては気に入らなかったのかもしれません。
 私は単に事業を会社のために伸ばそうと思ってやってきた。けれど事業欲、自己顕示欲、支配欲、何が優先するかという順位が経営陣とは絶対的に異なっていたのだと思います。

 経営陣は事業を支配したかった。しかし権利事業で実績をつくり、ありがたいことに社外とのコネクションも広げた私を更迭する勇気がなかなか持てずにいたと思います。
 しかし結局は一時的な業績を理由に更迭された。そのことが、今後のキャリアを見つめ直すきっかけになりました」


知命塾説明会で背中を押される

セカンドキャリアを考えはじめてすぐ、たまたま友人から知命塾の説明会に誘われた。
何の気なしに参加してみると、転進についてどこか足踏みしていた心にグッと響くものがあった。

「40代後半の私を受け入れてくれるのは、同業の出版業界くらいしかない」と思っていたが、自分の強みを再確認し発想の枠を広げること、発想の転換を促されたからだ。

「培ってきたスキルをきちんと棚卸しして、複眼思考で捉えれば、意外なところに可能性を見つけられるかもしれないと思いました。また自分自身をメンテナンスしたいと考えたことも、入塾を決めた理由です」


思わぬオファーと知命塾参加

知命塾のカリキュラムが始まる2日前、エンターテインメント企業の社長から「うちに来ないか」と声をかけられた。
Hさんはこのオファーを受け入れることに躊躇する。
知命塾でセカンドキャリアについてじっくり考え、自分の新しい可能性とじっくり向き合い、広い選択肢で次の仕事を見つけたいと思ったからだ。

丁重にお断りしようとするが、社長は返「事はいつでもいい」と答えてくれた。
「あなたと仕事をしたいと思ったからオファーしたのです。ポジションに対してではなく、人に対して声をかけているので、気持ちが決まったときに連絡をください」

Hさんは知命塾でキャリアについて学び、出版や権利事業で培った自分の力やネットワークなどの棚卸しをし、その活かし方や自分のこれからの生き方をじっくりと考えると同時に、その会社の事業についても深く研究した。
また実際に先方の社員に会って直接取材するなど理解を深めていった。
そうするうちに自身の思いや志と、企業の理念、社長のポリシーが合致していると強く感じた。

知命塾に参加する中で、Hさんは「あの社長のもとで働きたい」という気持ちを強めていった。
講座を受講したいまなら、自信をもって次の道に進めると思った。

「私にとって不当と思えた人事異動は、結果的に最良の導きになりました。みずから決断し、一歩踏み出すことによって機が巡ってきて、転職の話もいただけたのだと思います」


知命塾で広がった視野。新しい仕事にも今まで以上のやりがいを持てるように

多くの参加者にとって知命塾はセカンドキャリア、人生のあり方を考えるための場所だ。しかしHさんには別の発見もあった。
自分を更迭した経営陣、そして自分を誘ってくれた社長を念頭に、経営者にとって必要な人材とは? という視点でも考え続けたからだ。

「塾生は40代から50代の男性が大半を占めます(※)。『現在のミドル・シニア層のうちで、企業でマネジャー職を務める女性が圧倒的に少ないからだ』と思いました。
 しかし、有能な女性はたくさんいます。これからの社会を担う成長企業で活躍できる女性もたくさんいるはずです。知命塾の塾生の男女比が半々になる日が来ないと、日本社会におけるミドル・シニアも含めた本当の人材活用は進まないと痛感しました」

現在、オファーを受けた会社において、公共性を持った新事業を立ち上げたいと考えている。
「社会に自分の力を役立てたい」、この視点も知命塾で仲間とキャリアを考えあう中で深まっていった。ミドル世代の女性代表として、Hさんは新しい道を開拓する決意だ。

(※)Hさんの参加した期の場合。男女比は期によって変化します。

出典:日本経済新聞出版社「あなたは、今の仕事をするためだけに生まれてきたのですか」より抜粋改編