第46回「紹介の基準とは」-中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

リクルートエグゼクティブエージェント 中村一正氏の連載コラム「キャリアを考える」

[中村氏より]
エグゼクティブ領域の紹介事業に携わるようになり16年目。
最初の9年間は縄文アソシエイツ、ハイドリック&ストラグルズと純粋なヘッドハンター。
そして今はリクルートグループにいますので、リテーナー以外にも、成功報酬型でのサービスも提供できる状況で7年目。
この連載は、そんな私が日々残している、クライアント企業や、キャンディデートの方々との面談メモをベースに、企業名、個人名が特定できないよう配慮しつつ、記述させて頂いております。

第46回「紹介の基準とは」

この仕事をしていて、よく聞かれるのは、「候補者の方のどこを見ていますか。」「仕事が出来るかどうかの基準は何ですか。」「自信をもって企業に紹介できるのはどんな人ですか。」と言うような類の質問である。

一つの答えは「ある外資系消費財大手の幹部の方から伺った話ですが、その会社を飛躍的に成長させた何代前かの社長は、とっつきやすくて、一緒にいると触発されるようなタイプの人間を各組織の真ん中に配置するようにしておけば、会社なんて勝手に大きくなると言っていたそうです。それだけではないと思いますが、人物タイプと言う意味では重要なファクターかなと考えています。」と言うような話。

しかし、間髪入れずそれに繋げるのは、
「しかし、局面次第では、強面で、一緒にいるだけで緊張感が走るタイプの人が必要なこともあります。
買収した会社の状況が良くないから社長を替えたいと相談されて、状況はかなり深刻で、王道で行くか、多少荒っぽいけれどショック療法で行くかですね、と答えたところ、双方のタイプに会いたいと言うことになり、結果的に後者の方を迎えて頂いたことがあります。
その方、別にぶっきらぼうなわけじゃないですが、典型的な目が笑っていないタイプで、顧問の三ヶ月が過ぎて、社長就任一発目の幹部会で、会社貸与のクレジットカードを皆に出させて、その場で全部にハサミを入れたそうです。赤字の会社にそんなものは必要ないと。」 と言うような話です。

それに対して「けど、そもそも、仕事が出来ると確信してこその人物タイプの話ですよね」とも問われるが、例えば一時間、じっくりと話を伺うと、少なくとも紹介に足りるレベルか、クライアントの期待値を上回る方かは理解できる。
ちなみにこの一時間、ほぼ話を聞きっぱなしで、「こんなに気持ちよく自分のことを話したのってもしかしたら人生初かもしれないですね」などと言われることもある。
その話にリアリティがあるか、主体的に動いて来た人か、再現可能性が高いか、その為の方法論は確立しているか、等々を確認しながら話を伺うわけだが、この時間が、この仕事をしていて、もっとも充実した時間かもしれない。

尚、転職慣れしている人は、レジメも凄いが、この際の自己アピールも凄い。しかし、あれもやった、これもやったの話は眉唾である。そして、そういうタイプの方と話していると、個別具体的な話を伺っているはずなのに、ずっと「中村さん、わかります。僕は僕のことが大好きなんですよ。そう世界一大好きなんです。」と何度も何度も、つまりは一時間繰り返されているような錯覚に陥ることがある。

私は、そうではなく、語られる経歴に躍動感を感じるタイプの方を、少なくともリーダーとしてのポジションには紹介するよう心掛けている。


中村一正

(株)リクルートエグゼクティブエージェント シニアディレクター
1984年野村證券入社、中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事。その後外資系生保会社へ転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年、外資ビッグ5の一角であるハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと、一貫してエグゼクティブサーチ業界。小売・サービス、消費財を中心に、業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系中堅成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。